更新日:2024.03.29グリホサートに危険性はある?正しい見解を徹底解説

ラウンドアップ製品の有効成分であるグリホサートに、あたかも発がん性や発達障害との関連性があるかのように主張する情報が流れていることがあります。本当に安全なのか、不安に思っている方もいるのではないでしょうか。

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートは、40年以上にわたり安全性評価が検討されてきた成分です。グリホサートの発がん性・遺伝毒性・神経毒性といった危険性はないことが公的機関の安全性評価で公表されています。危険性の主張は科学的正確性に乏しいものも多いため、公的機関のデータを引用している情報を確認することが大切です。

この記事では、グリホサートに危険性はあるのか、なぜ誤認が広がっているのかについて専門家の意見も交えて解説します。

グリホサートが危険だと誤認されている理由

ラウンドアップ製品に含まれるグリホサートは多くの毒性があり、危険だとする誤認が広がっています。しかし、危険だと主張する多くは科学的知見に基づかず多くの反論が上がっているため、どのような理由から誤認されているかの確認が大切です。毒性学の専門家である東京大学名誉教授 唐木英明氏の見解を交えて誤認の理由を説明します。

国際がん研究機関によるグリホサートの分類

国際がん研究機関(以下IARC)は、ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートをグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」物質に分類しました。IARCは特定の物質や要因が、人間に対し発がん性を有するか(ハザード)を調査し、4段階に分類した「IARC発がん性分類」を公表しています。

しかし、IARCがグリホサートを美容師や理容師、夜間シフト労働、赤肉、65℃以上の熱い飲み物などと同じグループ2Aカテゴリーにしているのは、暴露量を考慮に入れたリスク評価ではないため、規制に用いられるものではありません。さらに、IARCの発表後、農薬の国際基準の設定のためにリスク評価を科学的に行っている国連の世界食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO) の合同残留農薬専門家会議(JMPR)はグリホサートの再評価を実施し、2016年5月に「食を通じてグリホサートがヒトに対して発がん性のリスクとなるとは考えにくい」と発表しました。

また2018年5月にはWHOがIARCに対してJMPRやFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)によって評価された化学物質について、IARCで評価を行うことは混乱を招くと指摘しています。

さらに、日本を含む世界各国の規制当局においてもIARCの発表以降、グリホサートの発がん性を含めた安全性の評価について見解を発表しています。日本では内閣府食品安全委員会が2016年7月に「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった」と結論付けた評価書を発表しています。欧州でも欧州食品安全機関(EFSA)が2015年11月に「グリホサートは発がん性または変異原性を示さず、受精能、生殖、胚発生に影響する毒性を持たない」、欧州化学物質庁(ECHA)が2017年3月に「グリホサートは発がん性物質、変異原性物質あるいは生殖毒性と分類する基準に合致しない」という見解を示しました。

米国では米国環境保護庁(EPA)が2017年12月に「グリホサートはヒトに対して発がん性があるとは考えにくい」と結論付けた評価書案を公表し、その後2019年4月にも「グリホサートは発がん物質ではないことを確認した」という見解を示しました。その他カナダ保健省病害虫管理規制局(PMRA)、ニュージーランド環境保護庁(EPA)、オーストラリア農業・動物用医薬品局(APVMA)も同様の見解を示しています。

危険性を主張する論文の存在

ラウンドアップの有効成分グリホサートには、あたかも危険性があるかのように主張する論文があるのも事実です。しかし、論文に書かれている内容が全て正しい訳ではなく、中には科学的根拠に基づかないものも存在します。

論文は大別すると「新しい仮説を発表するもの」と「その仮説が正しいか検証するもの」に分かれます。ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートの場合、長年の使用歴から、危険性の仮説が出てもその仮説を検証する論文により科学的根拠に基づき全て否定されてきました。このため、新たに危険性が主張されたとしても、第三者による検証論文の積み重ねがないと科学的に正しいとは評価されません。

専門家の唐木氏も『その他大多数と異なる意見で危険だと主張する論文は「何かがおかしい」と思わないといけない』と警鐘を鳴らします。

(参考:『Chapter4グリホサート(ラウンドアップの有効成分)は危険だという論文があっても第三者による検証論文の積み重ねがないと科学的に正しいとは評価されない』

(参考:『ラウンドアップの安全性について:よくあるご質問(FAQ)』

アメリカの裁判における判決

米国における裁判については、弊社は当事者ではありませんが、判決によってラウンドアップ製品の有効成分グリホサートの発がん性が科学的に証明された訳ではありません。

米国では裁判のあり方が異なり、日本のように実際に被害があった原告が訴えて職業裁判官が有罪立証をもとに判決するのではなく、実際に被害がなくても原告になりえそうな人を募集した弁護士事務所が訴えて一般市民から選ばれた陪審員のうち51%以上を説得できれば評決となります。陪審員は専門家ではないため、個人の観察力と倫理観(感情)で判断したもので、どちらの主張が科学的あるいは医学的に正しいかを判断することはできません。

上記のように民事訴訟の陪審員制度の違いや、懲罰的賠償という独自制度により、弁護士の成功報酬が大幅に増えることで訴訟がビジネス化されています。また、訴訟マーケティング会社が原告を集めるためのテレビCM等で原告志願者名簿を作成販売する等で裁判を起こすビジネスに拍車がかかり件数自体は多くなりますが、ラウンドアップ製品の安全性とは何の関係もありません。

パンから検出されて問題視されたこと

SNSなどでパンやお菓子からラウンドアップ製品の有効成分であるグリホサートが検出されたと聞くと不安になりますが、農薬は多くの試験で得られた安全な量にさらに安全係数をかけて、人間が摂取しても安全な量が定められています。農産物は、これを超えるものが市場に流通しないように規制するための「残留農薬基準値」により安全性が守られています。この残留基準値は一日摂取許容量(ADI:ある物質について人間が生涯その物質を毎日摂取し続けたとしても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のこと)を超えないことが確認された上で設定されています。

よく週刊誌などで取り上げられる輸入小麦の「パンで検出された量」というのは、具体的な数字でいうと0.1~1.1ppmという量です。この0.1~1.1mg/kg程度の量というのは、ADIから考えると、(体重50キロの)大人だったら1日50mgまで安全とされているため、そのパン量は約50kgになります。つまり、8枚切りの食パンを1日1,000枚以上食べ続けることは非現実的な量であるため、ヒトの健康に何の害も及ぼさない量ということがお分かりいただけるかと思います。

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートは、土壌中で速やかに不活性化し、その後微生物等によって自然物に分解されるので、環境中や農作物にほぼ残留しません。しかし分析手法が進歩したことによって、これまでは測定できなかったような微量も測定できるようになりました。

東京大学名誉教授の唐木英明氏によると、農薬をはじめ化学物質の人体への影響は量に比例し、「多量なら毒性が高く、少量なら無害」という特性があります。この特性を利用して安全性は量の規制で守られています。微量の化学物質は数多くの食品に含まれていますが、ごく微量であれば健康に影響することはありません。

したがって、グリホサートが検出されるかどうかを問題にするのではなく、一日の摂取許容量を超える検出量なのかどうかを冷静に判断しましょう。

ベトナム戦争の枯葉剤であるという誤認

ベトナム戦争で使われた枯葉剤と除草剤ラウンドアップ製品(有効成分グリホサート)は全く異なります。化学物質である点以外同じところはなく、性質や毒性も違うものです。

ベトナム戦争で使用された枯葉剤エージェントオレンジに含まれていて多くの健康被害を出したダイオキシンは、生産過程で発生する副産物ですが、ラウンドアップ製品の製造工程においてダイオキシンが生成することはなく、製品中にダイオキシンは含有していません。ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートの原料はアミノ酸のグリシンで、睡眠用サプリメントに使われるほど安全なものです。

唐木氏は両者の安全性を「トラとネコぐらいに違う」と述べるほど、決定的な違いがあります。

(参考:『Chapter2グリホサート(ラウンドアップの有効成分)はベトナム戦争の枯葉剤ではない』

(参考:『Qグリホサート(ラウンドアップマックスロードの有効成分)はベトナム戦争で使われた枯葉剤ではないのですか?』

グリホサートの危険性に関するよくある疑問

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートには、一部のSNS等であたかも遺伝毒性や発達障害を引き起こすかのような主張もありますが、これらは全て科学的根拠のない情報です。

グリホサートには遺伝毒性がある?

いいえ、ありません。内閣府食品安全委員会は、ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートには、神経毒性・発がん性・繁殖能に対する影響・催奇形・遺伝毒性のいずれも認められないと発表しています。

遺伝毒性試験は生物のDNAに対する損傷、つまり遺伝物質へのダメージ(子や孫、ひ孫世代への影響)を調べるものです。試験の中には細胞を用いて行われるものもあり、化学物質が細胞内に突然変異を引き起こすかどうかを判定します。

内閣府食品安全委員会による2016年7月の農薬評価書では、遺伝毒性に関して次のように評価しています。『グリホサート(ラウンドアップ製品の有効成分)の細菌を用いたDNA修復試験及び復帰突然変異試験、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞)を用いた遺伝子突然変異試験、ラット肝細胞を用いたUDS試験、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラットを用いたin vivo染色体異常試験並びにマウスを用いたin vivo優性致死試験が実施された。結果は全て陰性であり、グリホサートに遺伝毒性はないものと考えられた。』

(参考:『グリホサートには遺伝毒性(遺伝子に障害を与えてがんを引き起こす毒性)があるのではないですか?』

(参考:『がんとの因果関係に科学的根拠なし』

グリホサートは発達障害を引き起こす?

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートと発達障害の一種であるASD(自閉症スペクトラム障害)の関連性は、千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授のグループが2020年5月に発表した論文において、「グリホサートがASDの原因である可能性がある」という仮説を提示したにすぎず、科学的に証明されたものではありません。

千葉大学リリースの「今後の展望と課題」にも「本実験で用いたグリホサートは高濃度(0.098%)であるため、本結果からヒトでの妊婦のグリホサートの摂取が、子どもにASDを引き起こすという結論は導き出せません。」とあります。

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートは、農薬登録を受けるために実施される各種毒性試験においても神経学的影響は認められていません。

グリホサートには危険性があるのか正しく理解しよう!

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートには、「発がん性や毒性があり危険」であるというような、不安にさせるような記述が見られることもあります。しかし、日本を含む世界各国の規制当局は、ラウンドアップ製品の主成分グリホサートの発がん性を含めた安全性の評価について見解を発表しています。

日本では内閣府食品安全委員会が2016年7月に「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった」と結論付けた評価書を発表しています。また、欧州では欧州食品安全機関(EFSA)が2015年11月に「グリホサートは発がん性または変異原性を示さず、受精能、生殖、胚発生に影響する毒性を持たない」、欧州化学物質庁(ECHA)が2017年3月に「グリホサートは発がん性物質、変異原性物質あるいは生殖毒性と分類する基準に合致しない」という見解を示しました。

米国では、米国環境保護庁(EPA)が2017年12月に「グリホサートはヒトに対して発がん性があるとは考えにくい」と結論付けた評価書案を公表し、その後2019年4月にも「グリホサートは発がん物質ではないことを確認した」という見解を示しました。その他カナダ保健省病害虫管理規制局(PMRA)、ニュージーランド環境保護庁(EPA)、オーストラリア農業・動物用医薬品局(APVMA)も同様の見解を示しています。

危険性を主張するものの中には、科学の世界のコンセンサスを得ていない仮説論文を根拠とするものや、ハザードとリスクを混同しているものなども含まれます。危険性を正しく理解したいときは、仮に論文があるからといって、必ずしも科学的根拠を持っているものではないと捉え、その主張の根拠を確認するようにしましょう。

(参考:『危険だという論文があっても第三者による検証論文の積み重ねがないと科学的に正しいとは評価されない』

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