更新日:2024.06.28パンからグリホサートが検出される?安全性をわかりやすく解説

グリホサートは除草剤のラウンドアップの有効成分です。病害虫や雑草害から農作物を守るために使われる農薬は、農作物ごとに決められた残留基準値の範囲以内であっても、食品から微量に検出されることがあります。そのため、小麦から作るパンから検出されることをニュースなどで知り、不安に感じている方もいるのではないでしょうか。

しかし、パンへのグリホサート残留量は人の健康に何の影響もないほどごく微量です。さらに、グリホサートは日本の内閣府食品安全委員会だけでなく世界各国の規制機関で科学的根拠を基に安全性が確認されています。

この記事では、グリホサートのパンへの残留量やグリホサート自体の安全性を、専門家の見解も交えて詳しく解説します。

パンにはどの程度のグリホサートが含まれている?

パンの主原料の小麦など農産物は、グリホサートなどの栽培管理で使う農薬が残留しても人への影響がないように、残留基準値という「量の規制」を徹底して安全性を守っています。グリホサートの残留の程度や安全性を、毒性学の専門家 東京大学名誉教授 唐木英明氏の解説を交えて説明します。

グリホサートとは幅広く使用されている除草剤の成分

ラウンドアップ製品で開発された有効成分グリホサートは、日本だけでなく世界各国で一般的に利用されている除草剤の主成分です。国内では昭和55年に農薬取締法に則り、農林水産大臣の許認可を受け農薬登録されています。

現在でも品質・安全性ともに認められており、一年生雑草から雑潅木まで有効なため、幅広い雑草管理に利用されています。

パンから検出されるグリホサートは極微量

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートは、小麦などの農産物を雑草害から守るために世界各国で使われるため、輸入小麦などを原料とするパン等からもごく微量ながら検出されます。実際の残留量はパン1kg当たり0.05mg〜0.18mg程度です。対して、内閣府食品安全委員会ではグリホサートのADIを体重1kgあたり1mgと定めており、安全性に問題がないことがわかります。

ADIとは、ある物質を一生涯毎日摂取しても、健康への悪影響がないと推定される一日あたりの摂取量のことです。専門家の唐木氏は危険性を「これは一日摂取許容量からいうと、(体重50kgの)大人だったら1日50mg。(中略)体重50kgの大人だったらパンを1日に50kg食べなくてはいけない。」と、人の健康に何の影響もない量だと解説します。

(参考:『Chapter6パンやお菓子からグリホサート成分がごく微量検出されたとしても、一日摂取許容量(一生の間、毎日食べ続けても安全な量)以内なら安全性は守られている』

残留農薬については厚生労働省が管理を徹底している

農業生産において病害虫や雑草害から農作物を守るために使われる農薬に対する「量の規制」である「残留農薬基準値」は、厚生労働省や農林水産省が安全管理を徹底しています。また、食品衛生法では安全基準が定められており、準拠しなければいけません。

例えば、厚生労働省は内閣府食品安全委員会のリスク評価に基づいた残留基準値の設定を行い、農林水産省は小麦の輸入時に船ごとに安全性の検査を実施しています。

輸入品は国が輸入前に、国内に流通している食品は自治体が市場等から収去し、それぞれ残留農薬の検査を行っています。万が一違反が発覚したときはその食品を破棄し、事業者に対し原因究明や再発防止の指導を行い、食の安全を守っています。

パンに含まれるグリホサートは本当に安全?

ラウンドアップに含まれるグリホサートは、日本だけでなく世界の規制機関が安全性を承認しています。なお、論文で発がん性が指摘されているといった情報があるものの、その論文自体の科学的正確性が疑問視されることもあるため注意が必要です。

グリホサートを含む除草剤「ラウンドアップ」は安全?

グリホサートを主成分とする除草剤のラウンドアップは、毒性学的手法から日本だけでなく、世界の規制機関で安全性を認めています。毒性学は化学物質の有する多岐にわたる生体への有害性を明らかにする手法で、安全性評価を行う科学的根拠の情報提供にも使われる方法です。

有害反応を解明するときも単一の方法を用いるのではなく、細胞レベルから実験動物レベルまで確認します。さらに、人への影響は性差・年齢差・新生児など化学物質に脆弱な集団まで、幅広い知識を基にする方法です。毒性学の専門家である東京大学名誉教授の唐木氏も

「ラウンドアップは、私が知る限り、有効性でも安全性でもずば抜けた除草剤というふうに思っています。」と述べます。

(参考:『Chapter1なぜ今、グリホサート(ラウンドアップの有効成分)の安全性を発信するのか?』

グリホサートには発がん性はない?※

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートに発がん性のリスクはありません。なお、グリホサートに関する論文の中には、あたかも発がん性との関連性があるかのような主張するものは確かにあります。しかし、全ての論文の内容が科学的に正しいとは限らない点に注意が必要です。

世界では毎年100万以上の論文が出ており、大別すると以下の2通りに分かれます。

  • 仮説を発表する論文(少数)
  • その仮説が正しいか検証する論文(多数)

仮説の正しさは「方法が適切か」「結果に再現性はあるか」、2つの面から検証が必要です。科学的常識に従っていれば方法が適切であり、第三者が同じ実験を繰り返したときに元の実験と同じ結果が出たときは再現性があると判断します。世界の規制機関は上記の方法で論文を検証した結果、ラウンドアップのグリホサートと発がん性に関連はないという結論でした。

※唐木氏監修

国際がん研究機関は発がん性があると認めている?

国際がん研究機関(IARC)はラウンドアップに含まれるグリホサートに「発がん性がある」と認めているのではなく、「IARC発がん性分類」グループ2の「おそらく発がん性がある」物質に分類しているだけです。

なお、グループ2には他に65度以上の熱い飲み物や夜間シフト、牛肉・豚肉・ラム肉などの赤肉も含まれます。私たちが普段から口にする加工肉や赤身肉、あるいは理容業などと発がん性を結び付けている分類の中身を見れば、実際にそれでがん患者が出ているということではないことがよくわかると思います。

IARC発がん性分類は、物質の発がん性そのものの強さやリスクを表すものではありません。あくまで人に対する発がん性の「証拠の強さ」を示しているものです。ただ、分類に使用した論文の中には方法論や再現性の点で疑問があるものが含まれているという批判もあります。ラウンドアップについては「発がん性はない」として多くの批判が出されました。

グリホサートを承認している機関一覧

ラウンドアップ製品の有効成分グリホサートは日本だけでなく、世界中の規制当局が安全性を評価し承認しています。具体的な承認機関は以下のとおりです。

  • JMPR(合同残留農薬専門家会議):FAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関※)が共同で農薬の残留基準値を決めるために設立。※IARCの上部組織
  • 食品安全委員会:国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下、規制や指導等のリスク管理を行う関係行政機関から独立して、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行うため、2003年7月1日に新たに内閣府に設置された機関。
  • 欧州食品安全機関:EFSA(European Food Safety Authority)。欧州委員会により食品の安全性に関する科学的なリスク評価を行う機関。
  • 欧州化学物質庁:ECHA(European Chemicals Agency)。EU内の化学物質の管理について統一性を持たせることを目的として、化学物質の登録、評価、認可、制限の手続きの運用・調整を行う欧州連合(EU)の専門機関の一つ。
  • 米国環境保護庁:EPA(United States Environmental Protection Agency)。人の健康および、大気・水質・土壌などに関する環境の保護・保全を目的とした行政機関。
  • カナダ保健省病害虫管理規制局:PMRA(Health Canada Pest Management Regulatory Agency)。カナダ保健省の支部として1995年に設立された農薬規制を担当する行政機関。
  • ニュージーランド環境保護庁:EPA(New Zealand Environmental Protection Authority)。環境に影響を与える活動を規制する責任を担っている行政機関。
  • オーストラリア農業・動物用医薬品局:APVMA(Australian Pesticides and Veterinary Medicines Authority)。農薬や動物医薬品などの化学物質及びその製品に対して人、動植物、環境を保護するため、安全性及び有効性の科学的評価により規制を行う行政機関。

この他にも、中国や韓国など日本近隣のアジア各国でも安全性が承認されております。

グリホサートの安全性について正しく理解しよう!

病害虫や雑草害から農作物を守るために使われる農薬は、農作物ごとに決められた残留基準値の範囲以内であっても、食品から微量に検出されることがあります。このため、パンからグリホサートが検出されることもありますが人の健康に何の影響もないごく微量のため、安全性への問題はありません。

グリホサートは国内外問わず、世界各国の専門機関である規制当局が安全性を確認しています。SNS等での危険性の主張は誤った理解に基づくものも多く、過度に不安になるのではなく、情報の出所や真偽を十分に検証し判断することが大切です。

監修者情報

※本文中の監修に関する記載がある内容のみ監修

唐木 英明 氏
(からき ひであき)

東京大学名誉教授 
食の信頼向上をめざす会代表

実績・経歴
東京大学農学部獣医学科卒業
同大学助教授、教授を経て2003年より名誉教授。
2003年 内閣府食品安全委員会専門委員を務める。
2023年 春の叙勲において、瑞宝中綬章を受章。

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